長期間の選考も終わり、遂に最終結果の発表となりました。非常に難しかったのは、大賞該当作品が二つ登場したことです。これは大激論の末、最終的に大賞受賞作を二作品とする例外的な対応となりました。しかし、新規の小説賞としては大変に喜ばしいことでもあります。以下は作品選評となります。
*順不同・敬称略とさせていただきます。
大賞 賞金・Amazonギフト券5万円分
『世界樹の世界 / あるいは無限に脱皮する蛇の見た夢』|馬路まんじ
大人気作家、馬路まんじ先生の参加作品です。世界樹と蛇の悠久の時の流れの中での会話の物語ですが、ファンタジーとしてはおそらく『人の前の時代』からあり続ける世界樹と、『俯瞰する知性』としての蛇との対話が、幻想性の中の人、世界と人の相関性を示す見解が述べられており、親しみやすいファンタジーと幻想性の高さとを両立させてなお考えさせられる物語です。蛇とは多くの場合、原初の知恵の象徴ですが、その蛇の俯瞰でも変わらぬ人の営みは、とても考えさせられるものです。
『ぐじん』|天方セキト
この物語の評はとても難しいものです。おそらくは意外と近くにたたずみ続ける深淵に関する物語なのですが、構成が秀逸なため、読むことによって覗き込む私たちは、こちらを覗かれる──つまり私たちの経験や印象がそのまま浮かび上がってくるのです。かろうじてその深淵に名前があるのは救いなのかもしれませんが、それは人と怪異との関わり方そのものです。秀逸な物語です。
金賞 賞金・Amazonギフト券3万円分
『卒塔婆小町』|夢酔藤山
有名な『九相図』のさらに先、おそらくは小野小町の独白が続きます。永遠に続くと思われる地獄の中に、しかしそれでもまだ生者の世界と関わり続けるその独白は、どこかまだ彼女の執着と現世との関わりが残っており、もの悲しくも魅力があります。それこそが彼女の魅力の名残なのかもしれません。
銀賞 賞金・Amazonギフト券1万円分
『邪淫の水路』|和田賢一
愛する者のための強い情熱が、闇の者にはまばゆい松明に映ったのかもしれません。それは自分の道を照らす光であるとともに、稀にその光に焦がれる者も引き寄せてしまいます。それが引き寄せる結末は……? 昏い幻想性と美意識が素晴らしい物語です。
『終わりの海を覚えてる』|葛城騰成
等しく全てが終焉していく海辺で最後に見出せるのは、意外な事に鮮やかな色彩です。それは過ぎていった時代の壮大な断片や立ち去った人々の数を超えてなお、永遠や不滅の価値が輝きを放ちます。誰かがいて、その手を取る事。そこにこそ永遠性があるのかもしれない、そんな物語です。
佳作 賞金・Amazonギフト券5千円分
『凍てし空、祈りの裂け目』|葉山礼加
『大きな木(あるいは手)のはなし』|全布団上
『緯度零度をこえて』|尾内甲太郎
『石胎の朝』|NOVENG MUSiQ
『甦 -Fusion-』|terra.
本コンテストおきましては想定以上に完成度の高い作品が多く、しかも幻想文学からライトノベルまで作品の幅が間断なきグラデーションを描いており、『ファンタジーとは? 幻想小説とは?』という問いへの多様な答えを巷間に示せるものです。このうち、あえて大きく色彩や情景の異なる作品を佳作として選出いたしました。
Creative Writing Space運営事務局の選評結果
Creative Writing Spaceは、「あたらしい文芸投稿プラットフォーム」を掲げ、ジャンルにとらわれない創作の場を提供する文芸投稿サイトです。
本コンテストにおいて、Creative Writing Space運営事務局より、同サイト内で募集した作品に関する選評結果の提示を受けました。同事務局による選考は、作者の属性等を考慮せず、作品内容を基準として行われたものである旨の説明を受けております。
提示された結果は、【特に良いと評価された3作品】および【そのほか良いと評価された5作品】の、計8作品です。
「特に良い」とされた三作品については、いずれも同等の評価であり、順位付けを行うものではないとの説明がありました。
名興文庫では当初、Creative Writing Spaceから推薦される作品数について一定の枠を想定しておりましたが、Creative Writing Spaceより提示された選評内容を尊重し、同事務局から提示された情報をそのまま掲載いたします。
なお、名興文庫とCreative Writing Spaceとの連携は、本コンテストをもって一区切りとなります。
最後になりましたが、このたび【第01回】名興文庫-漆黒の幻想小説コンテストの実施にあたりご協力いただきましたCreative Writing Space運営事務局ならびに関係者の皆さまに、心より御礼申し上げます。
Creative Writing Spaceの今後の発展と、関係者の皆さまのご健勝をお祈り申し上げます。
特に良いと思った3作品
『侏儒』|称好軒梅庵
焼肉屋という日常の場に侏儒が現れ、異界性と滑稽味がひとつに結ばれる。 牛カルビとヒキガエルの干物の取り合わせは、不気味さと笑いを同時に呼び込む。 幻想小説に落語的なユーモアが交わり、独特の味わいを獲得した作品である。
『蛇と月。』|嘉良崇
大蛇が飢えを抱えて宇宙をさまよう姿は、幻想小説の迫力とともに寓話の明快さを兼ね備えている。 破壊と誕生の循環を描きながら、物語は神話と児童文学のあわいに身を置く。 語りは平易でありながら、壮大なスケールを自在に行き来し、読み手を広く招き入れる。
『あたらしい魚』|尾内甲太郎
赤い砂に現れた新種の魚は、醫術や図鑑では捉えきれず、想像を拡張させる存在として描かれる。 科学的な観察と神話的なまなざしが交錯し、幻想小説ならではの不思議なリアリティが立ち上がる。 海に還らず空を仰ぎ、飛翔の兆しを見せる場面は、寓話と黙示を重ねるように鮮烈である。
そのほか良いと思った5作品
『古龍と海人』|茅杜弐 乃至真
歴史譚のような力強さと、詩的な幻想小説の気配が交錯し、物語は現実の枠を越える。 犠牲と再生の主題はジャンルを超えて普遍性を帯び、読む者の心に残る。 その余韻は、波の音とともに長く響きわたる。
『試し切り』|笛地静恵
モノローグ調の淡々とした語りの中に、静謐と不気味さが同居し、読者を異界へと導く。 日常の風景がふと歪み、幻想の影が滲み出すことで、物語は現実の枠を越えてひらかれていく。 比喩の余韻が詩のように響き、読む者の内奥にゆるやかなざわめきを残す。 幻想小説と詩の響きをクロスオーバーさせ、ジャンルを越えた読者にも訴えかける力をもつ。
『常夜の国』|ひらやすみ
川から池へと水を注ぐ行為が、星の誕生と命の記憶を呼び起こし、物語は自己の内部でさらに想像を生み出していく。 単調な営みが異界の宇宙をひらき、幻想小説ならではの二重の世界構造を示している。 この「物語の中でまた想像する」構造が、作品全体を支える独自の魅力となっている。
『ウーフニック』|称好軒梅庵
モノローグの断片が積み重なり、現代詩の文体と幻想小説の語りが交錯する。
都市の路上から神話的な柱の幻視へと飛躍し、現実と超越の境界が揺さぶられる。
詩と小説のクロスオーバーにより、ジャンルを越えた独自の表現が形づくられた実験作。
『鏡人』|尾内甲太郎
幻想小説としての濃密さを持ちながら、鏡像関係をめぐる主題が文学的な深度を湛えている。 寓話と文学的叙述が重層し、ジャンルに捉われず、広く開かれた表現にたり得ている。

