【第02回】紅梅の作品選評企画の総括

紅梅

謝辞

令和5年5月1日〜令和5年5月31日にかけて「【第02回】名興文庫−紅梅の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!

企画詳細

「【第02回】名興文庫−紅梅の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら

【キーワード】
「小春日和」
・文中に「小春日和」が含まれている文学作品を募集します。
【条件】
・総文字数2万字以内で完結済み
・作品内にキーワードがある文学作品であること
・Web小説投稿サイトで公開中であること
・シリーズものは不可
・応募は1人1作品まで
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・作品のURLをリプしてください
・期限は令和5年5月31日まで
【その他】
・感想はブログに掲載します
・批評の希望があれば、その旨をツイートに記載してください
 (特に言及がない場合、感想のみとします)
 (批評を後から希望されても受け付けできませんのでご容赦ください)
・講評はブログにて記載します

総括

 まず初めに、「【第02回】名興文庫-紅梅の作品選評」企画にご参加くださった皆様、拡散にご協力下さった皆様、誠にありがとうございます。

 今回は「小春日和」を作中に使用している作品を募集しました。おそらく多くの方が「この時期に小春日和?」と疑問に思われたことでしょう。

「小春日和」について『日本国語大辞典 第二版 第五巻』で調べてみると、〝冬の初め頃の、暖かく穏やかな気候。陰暦10月頃の春のような天気〟と記載されています。また、『暮らしのことば 新語源辞典』で「小春日和」を見てみると、そこに〝春の暖かく穏やかな晴天の日をいうのは誤用である〟と記されています。「小春日和」は春に使う言葉ではありません。

 つまり、今回の紅梅企画は「季節外れなお題」ということです。なので、今回の企画に合わせて執筆するのは大変だったかと思います。ですがご応募いただいた作品はすべて作中に「小春日和」がありました。応募してくださった作家の皆様、本当にありがとうございます!

「小春日和」について、少し深掘りしたいと思います。

『身近な気象の事典』で「小春日和」を確認すると、面白いことが書かれていました。沖縄では「小春日和」に相当する言葉として「十月夏小」があり、「小夏日和」ともいうそうです。これは、沖縄では旧暦10月はまだ日差しが強く日中の気温が高い時もあるため「春」と表現するにはそぐわないから、だそうです。

『日本語源広辞典[増補版]』で「小春(コハル)」の語源を調べてみると、二つの語源説があることがわかりました。
 説1・「漢語小春(ショウシュン)の訓よみ」
 説2・「コ(接頭語)+春」…この場合、ちょっとした春の意味です。晩秋初冬の頃にある春のような暖かい日を指します。

 最後に『角川新字源 改訂新版』で「小春(しょうしゅん)」を見てみました。すると〝陰暦10月 こはる この時期は、春に似て気候が温和で花の咲くことがあるのでいう〟と説明がありました。

 なぜ今回、紅梅企画で「小春日和」をキーワードにしたのか。それを説明するのに、文化庁の「言葉のQ&A 013「小春日和」はいつ頃の天気か。」を見ていただきたいです。ここには「小春日和」の意味や、実際の用例が紹介されています。そして、「小春日和」を本来の意味とは違って理解している人が多数いる、という結果が具体的な数字と共に紹介されています。

 元々は陰暦の10月を指していた「小春」。ですが今は陰暦10月頃(11月から12月上旬)だけでなく、1月や2月にも使う傾向があるそうです。少しずつ言葉が変化しているのでしょう。もしかしたら将来、温暖化の影響により「小春日和」ではなく「小夏日和」の方が主流になるかもしれません。

 言葉は常に変化しています。流行語は数年経てば大半が忘れ去られ、世代によって言葉の印象が違ったりします。変化し続ける言葉に対し、物書きはどのような姿勢で向き合えば良いのでしょうか。これにはさまざまな意見があると思います。
・辞書で使われている通りに使用する
・時代の変化に合わせて使用する
・特定の世代にだけ届くような使い方をする
・変化が激しい言葉は使用しない etc…

 言葉は生き物です。常に変化しています。ですが、定義が曖昧なまま使用すれば意思疎通を阻害することになります。使い方が悪ければ、伝えたい内容が伝わらず、誤解を生んでしまうかもしれません。すれ違いを少しでも減らすために辞書がある、と私は考えています。ですが、辞書は世の中にあるすべての言葉を掲載しているわけではありません。絶対の指針とするには少し心許ないです。

「小春日和」という言葉が使われている小説。もし執筆するとしたら、あなたはどのような物語を紡ぎますか? 是非、今回応募があった作品を読んで考えてみてください。そこからあなたの創作方針が見えてくるかもしれません。

【参考文献・サイト】
『日本国語大辞典 第二版 第五巻』小学館 2002.1
『暮らしのことば 新語源辞典』講談社 2008.11
『身近な気象の事典』東京堂出版 2011.5
『日本語源広辞典[増補版]』ミネルヴァ書房 2012.8
『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA 2019.12
文化庁「言葉のQ&A 013「小春日和」はいつ頃の天気か。」2018.5

読了後の感想・評価

ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
敬称略とさせていただきます。

『季節を今』|みちづきシモン

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 心地良い天気の中、足の赴くままに散歩をする主人公を描いた作品。みちづきシモンさんの持ち味である柔らかい文章に、読んでいて気持ちがほっこりしました。主人公の視線は優しく、友達との関係は良好。それでいて政治や経済に関心もあり、きちんと日々を大事に生きている人なのだと感じられ、好感を抱きました。主人公の優しさが温かい気候とリンクするようで、素敵だと思います。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 小春日和に散歩しながら春を待ち遠しく思う物語。作者さんがリズムに乗って文章を綴られたのがひしひしと伝わってきます。このリズムに乗れるととても心地良い読書体験ができ、疲れた日常が解かれていく感覚を得られそうです。

 ただ、少々感情に流されすぎているような気もします。作者さんは、主人公の目に入ったものから連想できることを次々と書かれているのでしょう。だからこそ、主人公の思考回路についていけるかいけないかで読者がふるいにかけられてしまう危うさがあります。少しもったいないです。

 心赴くままに綴る、というのはとても楽しい体験です。ただ、作者さんの思考に乗れない読者は置いてけぼりになってしまう場合があります。なので、もう少し物語全体を俯瞰して執筆されてみたらいかがでしょうか? そうすれば作者さんの持ち味がより魅力的になると思います。

 ご応募、ありがとうございました!

檸檬担当
檸檬担当

 日常を切り取った作品。散文的でエッセイのような。

「小春日和ってどういう意味?」と聞かれたら、「例えばなんだけど……」とこの作品のように例えてもらったら、好きになるかもしれない。そんな作品だ。

 この作家さんであればきっと、ワード(小春日和)を使わずに、しかしながら「小春日和」を感じさせるさらにコンパクトな作品に仕上げられるのではないかと感じた。温かな空気が行間からにじみ出ている。

『きっと、昔の人も……』|トド

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 今回のお題の狙いをまさに題材に盛り込んだ作品で、とても嬉しいです。ありがとうございます! 小春ちゃんが「小春日和」について誤って認識しているのは、まさに今時の子だな、と微笑ましく思いました。また「小春ちゃん」「冬月さん」と、季節の名前が付けられていて、嬉しいです。最後、二人の関係性が明かされる仕掛けがあり、「なるほどそういうことだったのか」と面白かったです。どうか二人に温かな春が訪れますように。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 小春ちゃんの言動が可愛らしい作品です。明るく前向きで真っ直ぐ。素敵な女の子だからこそ、冬月さんは好きになったのだと納得しました。小春ちゃん、可愛い。ただ、描写がすっぽり抜け落ちている点が残念でした。

 二人は普段、どのような場所でデートするのでしょうか? デート先の描写にこだわるだけでも二人の関係性を表現することができます。例えば二人の恋が禁断から始まったとしたら、デートスポットは自然と人気のない場所になるでしょう。未来を見据えて今回は珍しく人通りの多い場所に行った、とすれば、二人の関係性が変化したことがわかります。風景描写をすることで、小春ちゃんや冬月さんが何を考えているのか、婉曲に表現することができます。是非、風景描写を足してみてくださいな。

 ご応募、ありがとうございました!

檸檬担当
檸檬担当

 シチュエーションの中に春の温かさを感じさせる作品。季節は冬。年の差カップルはこれからさらに「冬の試練」に立ち向かおうというところ。インターバルのような甘い時間。

ごちそうさまでした。

 コンパクトな短編につき、試みに、使う語句を必要最小限の必然まで磨き上げてみるとより輝くのではないかと思う。

『小春の笑い道』|フェザーフォルテ

*感想希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 笑うことに苦手意識を持つ主人公は、喫茶店の店主が閉店の際に行った企画を、大人になっても忘れなかった──喫茶店が持つ魅力、少し変わった店主と企画、技術の進歩によるコミュニケーションの変化。時の流れを忌避するのではなく、静かに受け入れる温かさにほっこりしました。小春日和の緩やかな日差しに包まれるような魅力がある物語だと思います。素敵でした。

 ご応募、ありがとうございました!

『小春日和の心地よさ』|地獄少年

*感想・(筆を折ってしまうくらいの)厳しめ批評

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 小春ちゃんと日和くんの恋愛物語。今回のお題の狙いを押さえてくださっている作品で、嬉しかったです。ありがとうございます! 日和くんの言動に小春ちゃんは一喜一憂し、心の中がコロコロと変化する様がすごく可愛かったです。また、小春ちゃんの勘違いに振り回される日和くんが微笑ましく、最後にタイトルを振り返って、二人の恋を心底応援したくなりました。最終的に小春ちゃんの望み通りになる展開に、構成の良さに感動したのと同時にほっこりしました。日和くん、頑張れ!

天宮さくら
天宮さくら

【(筆を折ってしまうくらいの)厳しめ批評】

 本作は小春ちゃんと日和くん、二人の心情を交互に表現している作品です。構成が素敵で、最初の返答が叶うであろうラストは感動しました。それぞれの勘違いが悪質なものではなく、当事者の二人は大変でしょうが、読者の私はほわほわとした気持ちで読了しました。小春ちゃんの拗ねてしまう素振りは女性として共感できますし、日和くんの戸惑いとその後のフォローは頼り甲斐があってカッコいいです。小春ちゃんが浮気を疑うのも無理はありません。

 作品全体を見た時思ったのは「Web小説としては完成度が高い。けれど書籍化を目指すならまだまだ書ける余地がある」でした。

 本作は三人称の視点で綴られています。なので小春ちゃんと日和くん、それぞれの心情を描くことができ、互いの勘違いが作品を温かなものにしています。ですが、三人称の持ち味である「俯瞰の視点」が少し弱いようにも感じました。もう少し「俯瞰の視点」を描くようにしたら、縦書きの小説とした時に魅力が増すのではないかと愚考します。

 もし描写を増やすとしたら、下記の三点になるかと思います。

・小春ちゃん、日和くんの容姿

・二人が会話をしている時の周囲の描写

・二人はどういった幼馴染なのか

「小春ちゃん、日和くんの容姿」

 一番最初さらりと読んだ時、日和くんが男子なのかが途中までわからなくて、少しつまづきました。小春ちゃんは口調からして女子なのだろうと予想ができたのですが、日和くんは「男言葉を使う女子」の可能性を捨てられなかったのです。実際、日和くんが男性だと確定するのは、小春ちゃんが浮気を疑ったエピソードで「彼」と日和くんを指している部分です。俯瞰して見た時の二人はどのような容姿の子なのかが初めの方に記載があれば、このつまづきが解消されると思います。

「二人が会話をしている時の周囲の描写」

 二人が会話している時の周囲の描写ががっつり描かれていないのは、Web小説ならまったく問題ないと思います。むしろその描写がないことで、二人の親密さが強く感じられます。ただ、紅梅で書籍化を目指すのでしたら是非描いていただきたいです。小春ちゃんが日和くんに浮気性なのか問いただした場面で、教室内にいるであろう他の生徒たちはどのような感じだったのでしょうか? 映画を見終わった後二人が歩く場所はどんなところなのでしょうか? せっかくの三人称なので、是非周囲を描いていただけたら嬉しいです。

「二人はどういった幼馴染なのか」

 幼馴染にもいろいろあるかと思います。生まれた時から家が隣だった、両親が知り合いで赤ん坊の頃からよく遊んでいた、小学生低学年の時どちらかが近所に引っ越してきた……さまざまなパターンがあります。二人はどういった幼馴染なのでしょう? ここの説明があると、小春ちゃんの片想いの期間に思いを馳せることができて、読者が想像する小春ちゃんの可愛さがより増すと思います。

 本作の文字数は7627字。紅梅企画は20000字が上限ですので、加筆する余裕があります。紅梅企画は条件を満たしていれば必ず最後まで読みますので、「縦書き小説として作品を読んだ時、読み応えがあるか」も考慮していただけたら嬉しいです。

(筆を折ってしまうくらいの)厳しめ批評ということでしたので、細かく書かせていただきました。次回も参加していただけると幸いです。

 ご応募、ありがとうございました!

檸檬担当
檸檬担当

 幼なじみ高校生カップル未満のものがたり。展開のなかで、物理的・心理的両面で(恋の)季節の軌跡を感じた。テーマの「小春日和」。二人のこころに北風が吹く中で、ほんわり感じさせるというにくい演出。

 短編ではあるが、こころの軌跡を態度やセリフで読者に「悟らせる」方向にもう一段ブラッシュアップされたものを読んでみたい。

『猫の恩返し』|千里 望

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 日本家屋の縁側で出会った、白い毛の猫と金髪で色の白い男の子。不思議に思いながらも、会えば充実した時間を過ごし、毎日に彩りが出てきた頃──。短いながらも、出会いに感謝とトキメキを覚える穏やかな物語。個人的に好きなお話です。猫の恩返しを受けて、最後主人公がもう一度、と願い努力する姿にとても好感を抱きました。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 穏やかで可愛らしく、ちょっと不思議。優しさを感じられる物語にほっこりしました。ニコルの愛らしさに主人公の心は満たされたのだろうな、と想像を膨らませています。ただ、全体的にさらりと短くコンパクトにまとめられていて、もったいなく思いました。もし可能なら、全体的にボリュームを増やしていただけたら嬉しいです。

 日本家屋で一人暮らしていた時はどのような毎日だったのか。ニコルとの会話はどのようなものだったのか。出版社の担当者とどのような関係を築いているのか。そして起きた事件。この辺りを丁寧に描くことで、主人公がニコルとの出会いを通じてどのような心境に至ったのかが、よりクリアに、そして深みを増すと思います。主人公にとってニコルとの出会いは格別なものだった、という部分をもっと詳しく知りたいです。是非、挑戦してみてくださいな。

 ご応募、ありがとうございました!

檸檬担当
檸檬担当

『吾輩はネコである。名前は「ニコル」』

 そんな風合いの作品だ。読みやすい短編の中に収められた起承転結が美しい。

 テーマの「小春日和」。小道具として使われているのに、画像も含めて全体の空気に溶け込んでいるように感じた。

『マジックアワー』|津多 時ロウ

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 幼かった頃に出会った一人の女性。主人公は彼女と会える時を心待ちにしつつ日々を過ごすけれど、ある日事件が起きて──。漁村、開発、オタキ様、マジックアワー。一つの時代を切り抜いた舞台背景に不思議な出来事が相まって、一万文字未満で完結しているとは思えないくらい味わい深い作品でした。とても面白かったです。女性の正体は何なのか……解釈の余地ある最後が作品に深みを持たせていて素敵です。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 物語構成、語り口、出会いと別れ、海の美しさ。とても完成度が高い作品だと思います。ただ一点、残念に思ったのが「潮の香りがしない」部分です。

 私は海沿いに住んでいた経験が幼い頃の数年しかないので、海を見る度、その存在感に圧倒されます。生き物が蠢いている生臭さが混じった潮の匂い。潮風に吹かれて早々と錆びていく鉄、ベタつく肌。魚を狙って空を飛ぶ鳥たち。

 物語の主人公にとって海沿いの生活は慣れ親しんだものだとしても、それらの感覚を認知できない、ということはないのではないでしょうか。ましてや、語り手は久々に帰ってきている。きっと、改めて認識したと思うのです。

 本作は夕陽に色づく景色の美しさをしみじみと感じる心地良さがあります。その裏側で、人の営みと文化の摩擦があります。それは生きていれば起こり得る仕方ないことなのでしょう。その難しさを、潮の香りに託しても良いのではないかな、と個人的に思いました。ですが本作は現時点でも素敵なので、無理して足す必要はないとも思います。

 ご応募、ありがとうございました!

檸檬担当
檸檬担当

 グラデーションを描く夕闇の空が美しい、ノスタルジックな作品。主人公のこども時代の数日が、不思議なリアル感をもって描かれている。

「小春日和」はワードとして登場したが、むしろ夏の終わりのような切なさを感じた。この作品に出合ったことがありがたい。

今後の予定

企画は今後も行う予定です。
その際はTwitterを通じて募集します。
よろしければ、名興文庫公式アカウントをフォローいただけると助かります。

今後とも応援の程、何卒宜しくお願い致します。