【第01回】紅梅の作品選評企画の総括

紅梅

謝辞

令和5年1月1日〜令和5年1月31日にかけて「【第01回】名興文庫−紅梅の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!

企画詳細

「【第01回】名興文庫−紅梅の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら

【題材】
「ハレの日」
・「ハレの日」を題材とした、心を震わすような小説を求めています
【条件】
・総文字数2万字以内で完結済み
・題材に沿った作品であること
・Web小説投稿サイトで公開中であること
・シリーズものは不可
・応募は一人1作品まで
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・作品のURLをリプしてください
・期限は2023/01/31まで【その他】
・批評の希望があれば、その旨をツイートに記載
(言及がない場合、感想のみ)
(批評を後から希望されても受け付けできませんのでご容赦ください)

総括

 まず初めに、「【第01回】名興文庫-紅梅の作品選評」企画にご参加くださった皆様、拡散にご協力下さった皆様、誠にありがとうございます。

 今回の題材は「ハレの日」です。「ハレの日」を『【詳解】日本史用語事典』で調べてみると、誕生、通過儀礼、婚礼、年中行事、祭礼など改まった時別な日、と説明があります。『日本文化のかたち百科』の説明によると、祭りの日を民族学では「ハレの日」と呼び、その日は仕事を休み、神に仕えるのだそうです。

 以上から、「日常とは違った一日を民族学では「ハレの日」と呼ぶ」と推測できます。

「ハレ」とは「晴れ」とも書きます。「ハレ」の対比として思い浮かべるのは「ケ」でしょうか。「ケ」は「褻」と表記する場合が多いですが、「毛」や「気」などの漢字を当てることもあるそうです。『山川日本史小辞典』によれば、「ハレ」と「ケ」を、「聖」と「俗」、「公」と「私」の対語を当てはめて説明する立場があるそうです。これに関しては『日本史大事典 第五巻』の「ハレ」の項目でわかりやすくまとめられています。お時間のある時にでも図書館を利用してご覧になられてみてください。

『国史大辞典 第七巻』によると、晴れの状況というのは晴着や晴の食事など、衣食住や立居振舞い、言葉づかいなどで表現されてきたそうです。非日常的なあらたまった特別な状態は、何かしら儀礼を執り行っている印象はないでしょうか?「ハレの日」はそういった儀礼に参加する日、と考えてもよいのかもしれません。

 さて、今回の題材は「ハレの日」です。まず「題材」という単語の意味をおさえておきたいと思います。『現代新国語辞典 改訂第六版』によると、「題材」とは「〔芸術作品・学問研究などの〕主題・内容となる材料」のことです。ですので、必ずしも作品内に「ハレの日」という単語を用いられなくても大丈夫です。

 今回応募があった作品は四作品です。難しい題材にも関わらずご応募いただけて、とても嬉しく思っています。本当にありがとうございます。

 四作品とも「ハレの日」を題材に取り上げてあります。内二作品は紅梅企画に応募するために筆を取ってくださいました。新年早々、気持ちが温かくなりました。作家さんたちには感謝で胸がいっぱいです。ありがとうございます。

 レーベル紅梅が求める作品は「人の心を丁寧に描いた作品」です。それこそが心を震わせることができるのだと、担当者である天宮さくらは考えています。故に「文章全体を研ぎ澄ませたか?」「これで完成でいいのだろうか?」「まだ改善できる部分はあるのではないか?」と、ねちっこく作品に向き合う気概・根性を作家さんには抱いて欲しいと願っています。

 今回の題材「ハレの日」は一筋縄ではいかなかったと思います。ですが、難しいからこそ挑戦し甲斐がある、簡単に表現できないからこそ手を動かすことで見えてくる形があるはずです。苦悩の末に完成させる楽しみを味わえるのが執筆であり、そういった作品をレーベル紅梅は求めています。

 レーベル紅梅は企画に応募があった作品を読ませていただき、その中でも特にレーベル担当者の心を強く打った作品の作家さんを中心に、お声がけさせていただく予定です。それ以外でのお声がけは基本するつもりが今のところないので、名興文庫-紅梅から出版を希望される方は企画に挑戦していただければと思います。

 皆様のご参加を心よりお待ちしています。

【参考文献】
三省堂『【詳解】日本史用語事典』2005.2
丸善『日本文化のかたち百科』2008.12
山川出版社『山川日本史小辞典(改訂新版)』2016.8
平凡社『日本史大事典 第五巻(全七巻)』1997.4
吉川弘文館『国史大辞典 第七巻』1997.8
学研プラス『学研現代新国語辞典 改訂第六版』2021.12

読了後の感想・評価

ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
敬称略とさせていただきます。

『アニバーサリーは似合わない』|水涸 木犀

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 遥斗と湊、わたし・弥都の三人が、キリの悪い周年記念イベントについてそれぞれ意見をぶつけながら、どういった趣旨で行われているのかを想像する会話劇。三人の結論にほっこりしました。また、本作は少し捻った視点で「ハレの日」を題材にしていて感動しました。着眼点が面白いと思います。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 今回ご応募いただいた作品はタグから推察すると、KAC2020に参加した作品でしょうか。なので、文字数が限られた結果、この形になったのだと推測しています。少ない文字数の中で、キリの悪い周年記念イベントから感謝の気持ちに会話がシフトしていく物語の構想力は、すごいものがあると思います。

 本作がそういった背景で執筆された物語であるのは重々承知です。彼らが会話を重ねたことで得た発見は心温まるものでした。彼らには今後も感謝の心を大事にしてほしいと願っています。ですが、紅梅レーベルに本作が合致するかと問われれば、首を傾げてしまうのが本音です。なぜか。登場人物や舞台背景がまるで見えてこないからです。

 あらすじを確認すると、遥斗と湊のキャラクターについて少しだけ説明があります。ですが弥都についてはまるで手がかりがありません。彼らの年齢・性別・社会的立場、互いの関係性や距離感、対話するまでの経緯、対話している時間帯や舞台背景。作者さんの発想がそのままセリフに投影されていると予想しています。故に現状、どうして小説という形で表現したのか、小説よりももっと面白い表現方法があったのではないか、と感じました。読み取りの力不足で申し訳ないです。

 小説という形で発表した意味や理由を言外ににおわすのに、登場人物の性格や姿、舞台背景の描写、物語の構成やプロットをしっかりと考え描写する。その楽しみが執筆にはあると個人的に思っています。本作の着眼点には驚きと面白さがありました。是非、今後も創作活動を続けていただけたらと思います。そして、創作を通じて素敵な発見を教えていただけたら嬉しいです。

 ご応募、ありがとうございました!

『四角いそれは』|トド

*感想希望

天宮さくら
天宮さくら

 四角いそれに残す『記録』。成人式を迎えたばかりの青年にとって、現時点ではなんてことない代物。けれど、両親にとってはかけがえのない『記憶』となる。

 成人式という「ハレの日」の一場面を『記録』に残す短編小説。文字数が少ないながらも息子と父親の心情の違いが丁寧に描かれていて、ご両親の感動が静かに伝わってきました。親の心子知らず。ですが、きっと彼もまた成長すれば親の心を理解してくれる──そんな希望を抱けました。じんわりと心に響きます。作者さんはこれ以上追記できないとお悩みのようでしたが(ツイートを拝見しました)、情景描写を足せばより魅力的になる作品だと思います。

 ご応募、ありがとうございました!

『福を掴む』|みちづきシモン

*感想希望

天宮さくら
天宮さくら

 彼女との結婚が決まった時、主人公が思ったのは「神様に祝福されたい」。その想いを胸に、西宮神社で行われる祭事「開門神事福男選び」に参加し、福男になるため本殿まで全速力で駆け抜ける──。

 本作のタイトル通り、まさに「福を掴む」物語でした。幸福になるためにはどうすればいいか? 棚からぼた餅を待ち続けるのではなく、自らの足で駆け抜け引っ掴む。その勢いと強い想い、そして人生の中で様々な苦労があったけれど留まることなく駆け抜けた生き様。それをふっと振り返る視点があることで、誰もが通る道だと認識させてくれる。喜びと華やかさ、切なさが詰まった人生を、限られた文字数で描かれていて感動しました。

 ご応募、ありがとうございました!

『妹暦の大火』|天野つばめ

*感想・批評希望

天宮さくら
天宮さくら

【感想】

 成人式の日、血のつながらない姉妹の暦と明は反乱を起こすことにした。手段は放火。なぜ二人は放火したのか、結果どうなったのかを描いた短編小説。暦が置かれた環境に思いを巡らせると、事件に関わった人全員が傷ついていて心が痛みます。どん底からの再生を放火という行為を通じて描かれており、火が燃え盛る様が感情の爆発のようにも思えました。振袖が触れ合う瞬間が美しかったです。

天宮さくら
天宮さくら

【批評】

 本作は、暦と明の緊迫した場面、暦の人間関係、過去、放火、結末という流れの構成をしています。過去の出来事を踏まえ放火を決意する流れは読んでいて説得力があり、その後の未来を想像して胸が痛くなりました。もし暦に明がいなければ、きっと壮絶な虐待が死ぬまで続いたか、自ら死を選ぶしかなかったのではないかと思います。けれど彼女たちの取った手段は許されるものではありません。そして、虐待をしていた弥生の立ち位置に、一方的な悪として断罪できない複雑さがあり、物語の深みを増していました。また、暦と明の特殊な姉妹関係と、二人の間にひっそりと存在する恋愛感情が愛おしかったです。ただ、部分部分で説明が不足していることにより、登場人物たちの心の距離感が掴みづらかったです。

 例えば2ページ目。1ページ目で暦と明の関係性は垣間見えましたが、暦の実の姉で警察官である千歳の説明が少しだけで終わっています。千歳がどのような人物なのか、暦との関係はどうだったのかが読み取れず、暦が十八歳を過ぎても逃げ出さなかった理由や、千歳に迷惑をかけたくないと黙っていた理由を想像するには説得力が弱い気がしました。もし私が同じ立場なら千歳のことなど無視して脱走したか、自殺を選択していたように思います。

 同じように、明が普段どんな子なのか説明が少なかったことで、5・6ページ目で明が取る言動の衝撃が読者に伝わりづらく、伏線が活きていないのが残念です。登場人物たちの関係性やそれぞれの性格の描写を増やしたら、より味わい深い作品になると思います。

 以上の部分を加筆修正することで、文字化しなくても読者に伝わる部分が出てくると予想しています。物語全体の情報量を計算して執筆なさったら、今以上に読者の心を揺さぶる物語を執筆できる作家さんだと思っています。今後も頑張ってください。応援しています。

 ご応募、ありがとうございました!

今後の予定

企画は今後も行う予定です。
その際はTwitterを通じて募集します。
よろしければ、名興文庫公式アカウントをフォローいただけると助かります。

今後とも応援の程、何卒宜しくお願い致します。