謝辞
令和5年8月1日〜令和5年8月31日にかけて「【第03回】名興文庫−紅梅の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます!
企画詳細
「【第03回】名興文庫−紅梅の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら
【題材】
「月見」
・「月見」を題材とした、心を震わすような小説を求めています。
【条件】
・総文字数2万字以内で完結済み
・作品内にキーワードがある文学作品であること
・Web小説投稿サイトで公開中であること
・シリーズものは不可
・応募は1人1作品まで
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・作品のURLをリプしてください
・期限は令和5年8月31日まで
【その他】
・感想はブログに掲載します
・批評の希望があれば、その旨をツイートに記載してください
(特に言及がない場合、感想のみとします)
(批評を後から希望されても受け付けできませんのでご容赦ください)
・講評はブログにて記載します
総括
まず初めに、「【第03回】名興文庫-紅梅の作品選評」企画にご参加くださった皆様、拡散にご協力下さった皆様、誠にありがとうございます。
今回の題材は「月見」です。皆様は「月見」と聞いて、何を思い浮かべますか?
私は「月見うどん」です。美味しいですよね、月見うどん。小学生の時、体調を崩した際に祖母が作ってくれた月見うどんがとても美味しかったのを、今でもよく覚えています。
国語辞典で「月見」を調べると、ほとんどのものに下記の内容が記載されているかと思います。
1 月を眺め、賞すること。主に陰暦八月十五日(中秋名月)、九月十三日(十三夜)の月を賞すること。
2 月見うどん、月見そばの略。
今回は題材が「月見」ですので、もしかしたら「月見うどん」を作る小説が来るかも? と期待していたのですが、ありませんでした。今回のようなお題があった際、辞書をぱらりとめくるだけで他の方とは一風違った作品を執筆できます。是非、日常的に辞書を開いてみてくださいな。新しい発見があると思います。
月見の歴史は古く、元々は中国の仲秋節に由来するそうです。日本に伝来したのは奈良時代。当時は貴族の行事だったものが、鎌倉時代に武家や庶民にまで広まったとか。『後水尾院当時年中行事』という江戸時代の書物には、天皇がお供えしていた茄子に穴をあけて月をご覧になり願い事をされた、といった内容の記述があります。
1と2の意味以外に月見には、近世、公家の成人式の後に行われる祝儀の意味もあります。旧暦六月十六日に「袖留」「腋」「鬢曾木」を行った後、饅頭を月に供え、その饅頭の一個に穴をあけて月を見たそうです。
お月見といえば、ススキと月見団子を並べ置くイメージが強いと思います。イラストに描かれる際、月見団子とススキのセットが多いから、でしょうか。しかし、月見は地域性のある文化です。里芋、栗、枝豆、おはぎなど、地域によって変わりますが、秋の味覚を一緒に並べます。そのため「芋名月」「栗名月」「豆名月」などとも呼ばれます。
また、月見はただ月を眺めるだけではありません。月に供えた団子や芋を子供が盗みに来る習慣があったり、綱引きをしたり、円陣を組んで踊ったり……と、地域によって様々な行事があります。また、八月十五日か九月十三日、どちらかしか月見をしない片月見は忌むものとされたそうです。
日本人は月の変化を大事にしていました。これは太陰暦を使用していたことと関係があるのでしょう。新月、二日月、三日月、七日月、八日月、九日月、十日余りの月、十三夜の月、望月、十六夜の月、立待ち月、居待ち月、臥待ち月、更待ち月、二十日余りの月、二十三夜の月。言葉のない現象は認識しづらいのが人間です。幸い、日本は月齢を数える文化がありました。日々の些細な変化に気づく下地があるのです。
月を愛でる文化があるというのは、とても贅沢で、恵まれたことだと思っています。そんな文化が土壌にある私たちだからこそ、描ける世界があるのではないでしょうか。
本企画が皆様の創作をより豊かにできるお手伝いとなれば幸いです。
【参考文献】
『岩波 国語辞典 第8版』岩波書店 2019.11
『旺文社 国語辞典[第十一版]』旺文社 2013.10
『旺文社 古語辞典[第十版]旺文社 2008.10
『大江戸 年中行事の作法』小和田哲男 2021.1
『学研 現代 国語辞典 改訂第六版』学研プラス 2021.12
『国史大辞典 第九巻』吉川弘文館 2001.1
『これだけは知っておきたい年中行事の常識67』長沢ヒロ子 2018.11
『三省堂 詳説 古語辞典』三省堂 2000.1
『知っておきたい 日本の年中行事事典』吉川弘文館 2012.2
『日本国語大辞典 第二版 第九巻』小学館 2002.3
『日本語源広辞苑[増補版]』ミネルヴァ書房 2012.8
『日本史広辞典』山川出版社 1997.10
『日本史大事典 第四巻(全七巻)』平凡社 1997.4
『日本民俗大辞典 下』吉川弘文館 2001.8
『日本歴史大事典──2』小学館 2000.10
『年中行事大辞典』吉川弘文館 2009.3
『年中行事の民俗学』八千代出版 2017.6
読了後の感想・評価
ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
*敬称略とさせていただきます。
『囀り鳥の月』|真名鶴
*感想・批評希望
【感想】
月の美しさを認めない金糸雀は自身の意見を妄信し、越えてはならないラインを超えたことで悲劇を迎える寓話。この悲劇は青い鳥が飛び去った某SNSを俯瞰しているかのようで、耳聞こえの良い意見ばかりを目にする危険性を改めて認識するきっかけとなりました。物語の最後は、致し方なしと思いながらも胸に迫るものがあり、思わず涙がこぼれました。本作で描かれた残酷さは他人事ではなく、誰にでも起きる可能性のある現実です。金糸雀、鸚鵡、極楽鳥、九官鳥、雀、黒鶫、鶸、駒鳥、鷲、梟。自分はどの鳥のような生き方を選んでいるのか──そんなふうに考えを広げることができました。読ませていただき、感謝します。
【批評】
まず最初に読んで思ったのは、物語の結末をこのように描くのは大変だったろうな、という点です。私が同じ題材で描いた場合、どのように終わらせるかをとても悩んだと思います。改心させるか、罰を与えるか、追放させるか、罪を許すか。人によっては悲劇を全力で回避することで残酷さを覆い隠し、和解という結末を描くでしょう。本作をどのように終わらせるかは、作者さんの倫理観や価値観を部分的に反映するような気がします。私は真名鶴さんがこの結末を描かれたことに敬意を表します。
本作の主人公は金糸雀ですが、それ以外の鳥の配置も素晴らしいです。それぞれ意味のある配置の仕方であり、真名鶴さんの知識の広さに敬服しました。人類が歴史の中で各鳥に与えたイメージをこうした形で表現されていることに、遊び心を感じます。
メッセージ性、鳥の配置、物語の長さと展開、文章。完成度の高い作品です。横書きのWeb小説の場合、読みやすさを優先するあまりに短文の連続で、縦書きにした際にスカスカとなってしまう場合がありますが、本作は縦書きで文章全体を見ても安定感があります。私はギッチリと書かれた文章を読むのが好きなため、とても嬉しかったです。興味深かったのは、鳥の数え方を「羽」ではなく「匹」にされていた部分でしょうか。まるで人のように見える鳥たちですから、わざとそうされているのかなとも思ったのですが、いかがでしょう?
これ以上何かを付け足す、というのは野暮になるでしょう。ただ贅沢を言うならば、「月」に対して真名鶴さんは読者に何を投影して欲しかったのか、その部分を感じ取りたかったように思います。もし次回またご応募いただけるのなら、真名鶴さんにとって「本当に素晴らしいもの」とはどのような存在なのか、教えていただけると幸いです。
ご応募、ありがとうございました!
『月夜に想いを馳せて』|みちづきシモン
*感想・批評希望
【感想】
愛する妻と月見をする主人公。始まりは主人公の何気ない言葉から。紡いだ日々は月明かりに照らされるように美しく、輝かしく感じました。妻との出会いはクスリと笑えるものでありながら、彼女の人柄や可愛らしさが滲み出ていて、素敵です。読了後、月が持つ気品を思い浮かべ、幸福を噛み締めさせていただきました。
月は約29.5日かけて満ち欠けしています。主人公の人生も月のように満ち欠けし、最後は満月で終えられたのだろうと想像する余地があり、嬉しかったです。そして何より、親から子へと引き継がれる言葉があった事実が慰めとなりました。
本作はみちづきシモンさんの持ち味である「優しい視点」が遺憾なく発揮された作品だと思います。その視座はまさに月明かりのよう。ひんやりとした空気を感じながらも、心は温かくなりました。
題材「月見」に真正面から取り組んでいただいた作風でした。執筆してくださり、ありがとうございます。
【批評】
本作を批評する目線で読んだ時に思ったのは、「短すぎる」です。
これだけ美しく、静かに、それでいて優しく描く力があるのに、あっという間に物語を終わらせてしまっているのは、本当にもったいないと思います。
例えば、冒頭。主人公の息子は何歳くらいでしょうか? 両親がお餅を食べている子から視線を外せるくらいには大きいのかな、とは思うのですが、いかがでしょう? 息子がどのくらいの歳なのかがわかるだけで、想像は大きく膨らみます。
5歳くらいなら、お餅をきちんと咀嚼できるけれど、時々様子を見ないと不安だよねとか。10歳くらいなら、そろそろ両親二人の仕草や雰囲気から何かを感じ取って、配慮ができるかなとか。15歳くらいなら、お餅を食べたらそそくさとどこかに行ってしまうんだろうなとか。
このような形で、ほんの少し情報を足すだけで親子関係が浮かび上がってきます。本作は息子さんが大事な言葉を引き継いでくれるので、ちょっとしたことですが、こうした情報を追加するとより作品としての深みが増すのではないでしょうか。
みちづきシモンさんは美しい感性をお持ちなので、じっくりと一作品ずつ執筆に取り組まれたら、より一層素敵な物語を紡がれるようになると思っています。
ご応募、ありがとうございました!
今後の予定
企画は今後も行う予定です。
その際はX(旧Twitter)を通じて募集します。
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今後とも応援の程、何卒よろしくお願い致します。