【第04回】紅梅の作品選評企画の総括

紅梅

謝辞

令和5年11月1日〜令和5年11月30日にかけて「【第04回】名興文庫−紅梅の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力してくださった皆様、ありがとうございます。

企画詳細

「【第04回】名興文庫−紅梅の作品選評」の詳細は以下になります。
*企画告知のページはこちら

【題材】
キーワード:「木瓜」
文中に「木瓜」が含まれている文学作品を募集します。
【条件】
・総文字数2万字以内で完結済み
・作品内にキーワードがある文学作品であること
・Web小説投稿サイトで公開中であること
・シリーズものは不可
・応募は1人1作品まで
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・作品のURLをリプしてください
・期限は令和5年11月30日まで
【その他】
・感想はブログに掲載します
・批評の希望があれば、その旨をツイートに記載してください
 (特に言及がない場合、感想のみとします)
 (批評を後から希望されても受け付けできませんのでご容赦ください)
・講評はブログにて記載します

総括

 まず初めに、「【第04回】名興文庫-紅梅の作品選評」企画にご参加くださった皆様、拡散にご協力下さった皆様、誠にありがとうございます。
 この度は「木瓜」が文中にある作品を募集しました。おそらく、多くの方が「何と読むのだろうか?」と思われたことと思います。

「木瓜」は「ぼけ」と読み、中国原産のバラ科落葉低木です。高さは1~2メートル、晩春に花が咲き、晩秋に実がなります。花は紅、淡紅、白色と様々あり、五弁花です。実は卵形もしくは球形で、黄緑色に熟すそうです。この実は食すこともできるらしく、砂糖煮や果実酒に用いられるのだとか。

 中国原産である木瓜ですが、実は日本固有の品種が一つあります。「クサボケ」です。こちらは本州および九州の日当たりの良い丘陵地から山地で自生するそうな。ただ、中国原産の「ボケ」が観賞用から野生化してもいるみたいです。

 いつ頃中国から日本に「ボケ」がやってきたのか、詳しいことはわかりません。ですが江戸時代中期から末期にかけて、クサボケやボケの栽培が各地で行われ、明治・大正時代には園芸品種が多くなったのだとか。人々の生活と密接な関わりがあったためでしょう、春の季語に「木瓜の花」、秋の季語に「木瓜の実」があります。

 中国原産の木瓜が初めて文献に登場したのは『詩經』衞風の項とされています。その記述から、女性が好きな男性に対し投果することで愛情表現をした、と考えられていますが、諸説あるそうです。気になる方は是非文献にあたってみてください。

 では中国でも「木瓜」は「ボケ」なのかというと、違います。日本でカリンとされているものが「木瓜」となり、ボケは「貼梗海棠」と表記するそうです。ですがかつてはカリンは「榠櫨」、ボケは「木瓜」だったそうなので、どこかのタイミングで変化したのでしょう。言葉は時代とともに変化していく事例の一つのように思います。

 日本の著名な作家の一人である夏目漱石は木瓜の俳句を詠んでいます。どうやら木瓜が好きだったらしく『草枕』の「十二」では、主人公が木瓜について語る場面があります。木瓜の見方が独特で、けれど本質を捉えているかのような、そんな文章です。気になった方は是非読んでみてください。

 今回応募のあった作品の作者様の中には上記に記載した「木瓜」に関する知識をお持ちの方がいらっしゃり、とても嬉しくなりました。また、花言葉を大事にしてくださった方や、花の色から連想してくださった方もいらっしゃいます。色鮮やかな作品を読めて大変楽しかったです。ご応募くださり、誠にありがとうございます。ご縁ありましたら、また次の企画にも参加いただけると幸甚だです。

【参考文献】
『改訂新版 日本の野生植物3 バラ科~センダン科』平凡社 2016.9
『漢字源 改訂第六版』学研プラス 2018.12
『漢詩選1 詩經(上)』集英社 1996.10
『草枕』夏目漱石 新潮文庫 2005.9
『四季の花事典 増訂版』八坂書房 1999.5
『集英社国語辞典 第二版[大活字机上版]』集英社 2000.9
『植物の漢字語源辞典』東京堂出版 2008.6
『植物名の英語辞典』小学館 2011.7
『新潮日本語漢字辞典』新潮社 2007.9
『大辞泉[第二版]下巻|せ-ん』小学館 2012.11
『大辞林 第四版』三省堂 2019.9
『日本うたことば表現辞典②-植物編(下巻)』遊子館 1999.2
『日本国語大辞典 第二版 第十二巻』小学館 2002.3
『必携季語季句用字用例辞典』柏書房 1997.9

読了後の感想・評価

ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
敬称略とさせていただきます。

『水光』|津多 時ロウ

*感想・批評希望

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【感想】

 五年前に家族を失った女性が、たまに見る夢の中で咲いている深紅のビロードを探す物語。選評企画を通じて津多 時ロウ様の作品を読ませていただいていますが、水の表現が美しくて素敵。ひんやりとした冷たさと、光に反射して煌めく美しさ。それが今作では家族を失った主人公の寂しさと愛しさにリンクするようで切なかったです。最後に描かれた優しい声と水の煌めきが胸を打ちました。

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【批評】

 物語の中でところどころに挟まれる短文の連続は、まるで詩を読んでいるかのよう。言葉の流れに心地良くなりつつも、主人公の吐露が苦しくもあり、内面がありありと表現されているように感じました。夢の中で見る木瓜の花を探す一週間は主人公の心が前向きになるきっかけを与えており、しばし読了感に浸りたくなりました。

 本作において残念だなと感じたのは、八ッ場ダムで見かけた男性の存在感です。主人公と祖父、祖母の存在は物語の中で息づいているかのように感じたのですが、男性はぽつんと外れているように思いました。主人公がそれまで見ていた世界の外にいる人物であるから距離を感じるのは当然だと思います。ですが、少し突飛すぎるようにも読めてしまうので、主人公の人生に新たな光をもたらしたとするには少々強引さが感じられました。もう少し男性の描写にリアル感があれば、また変わってくるように思います。

 ご応募、ありがとうございました!

『木瓜』|称好軒梅庵

*感想・批評希望

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【感想】

 誕生日に好意を寄せている彼女からもらったのは、青い木瓜(パパイヤ)。なぜパパイヤなのかわからない高橋は、同じ文芸サークルに所属する金谷に相談すると──『詩經』衞風の項を知らない人には驚きがあり、知っている人は冒頭からニヤニヤとしてしまう、とても愛らしい作品でした。初々しくて、きゅんきゅんします。読み終わった後、幸せな気持ちになりました。

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【批評】

 高橋くんが好意を寄せる女性の苗字が名越さんで、なんだかとても嬉しくなりました。ありがとうございます。本作の批評ですが、さらりとしながらもときめきを覚える読み心地、物語展開のスピード感、人物たちの描写、最後にそっと添えられた『詩經』衞風の項。それぞれが絶妙に合わさり、楽しく読み進めることができました。漢詩に苦手意識を抱いている人におすすめしたいです。

 ただ一点、紅梅レーベル担当者の好みとして思うのは、全体的にさらっとしてしまって読了感が薄くなってしまっているのが残念でした。本作は個性あふれる登場人物たちがそれぞれ秘めた想いを漢詩に託して相手に伝える、素敵な物語です。もう少し物語のテンポをゆっくりにして、高橋くんが名越さんの気持ちを理解していく過程を楽しみたかったな、と思いました。もし機会があればその過程を描いたバージョンを読んでみたいです。

 ご応募、ありがとうございました!

『木瓜咲くや』|真名鶴

*感想・批評希望

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【感想】

 久しぶりに会った古い知り合い、教え子からの手紙、教育者としての苦悩、親との確執、木瓜の花。拙を守る──目先の利益に振り回されることなく愚直に生きる。本来ならば教育者としてそれぞれの未来を重んじ平等に教育を施すべき、なのでしょう。限られた時間の中で取捨選択をしなくてはならない主人公の苦しみが、一人の教え子の存在で少し報われたのでしょう。一読者として、私も救われました。〝来世は、木瓜になれるだろうか。〟この一文がこんなにも胸に響くとは。

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【批評】

 全体を読ませていただいた後、「二 先生へ」が何故二話目なのだろうとしみじみ考え、じっくりと味わいました。一ではなく、二──ここが真名鶴様のセンスなのでしょう。とても感動しました。真名鶴様が二話目に「二 先生へ」を持ってきた意味をゆっくりと考える時間を得られたこと、とても嬉しく思います。また、夏目漱石が残した俳句と『草枕』の木瓜。そこからこんなにも味わい深い物語が生まれたことに、真名鶴様の執筆力の高さが窺われます。読ませてくださり、誠にありがとうございます。

 本作は主人公の複雑な立ち位置が物語に深みを与えており、短編小説でありながらも苦悩が凝縮され、最後の一文を読んだ時は涙腺が潤みました。親との確執が塾にやってくる子供たちの心情を推し量る下地になっているのでしょう、そんな主人公がどのような経緯で塾の講師をしているのか、その過去を知りたくなりました。身勝手ながら、短編小説としておくのは些か勿体なく思ってしまいます。

 ご応募、ありがとうございました!

『木瓜の花のように』|みちづきシモン

*感想・批評希望

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【感想】

 木瓜の花を通じて労働に対する主人公の考えが描かれ、気持ち新たに再出発した物語。物語冒頭の木瓜の花の光景に、寂しくもありながら、なんて美しいのだろう、と感動しました。最後、きちんと手入れをする主人公の変化が未来を明るくしていて、読了後にホッとしました。木瓜の花言葉がキーワードとなって物語が展開していく構成から、きっと作者様は木瓜についていろいろとお調べになられたのだろうな、と嬉しかったです。

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【批評】

 本作は主人公の労働に対する考えが色濃く描かれています。人材育成の困難さや、時代の変化による労働のモチベーションの違い、職場の雰囲気作りの重要性など、経営者の苦悩が読む人によっては強く心を打つ気がします。主人公の苦悩が庭でぽつんと咲く木瓜の花によって和らぎ、前へと進む原動力になっている本作は、キーワード「木瓜」に真正面から取り組んでくださったからこそ紡がれたのだと思っています。執筆してくださり、誠にありがとうございます。

 本作は上記のように、主人公の労働への考えが色濃く描かれています。そのため、主人公の考えに少しも同意できない読者が置いてけぼりになってしまう欠点が潜んでいるように思います。本作の全文字数は2,350文字。選評企画の上限である20,000文字にはまだまだ余裕があります。主人公の真っ直ぐな考えを、主人公の意見に賛同できない読者の気持ちも考慮しつつ執筆されてみたら、読者層がより広がると思います。

 ご応募、ありがとうございました!

『木瓜の花は初恋に匂い』|千里 望

*感想・批評希望

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【感想】

 ある日、孫の勇が盆栽を抱えて主人公・佐藤しずえの自宅にやってきた。その訳を知った主人公は──幼い少年が胸に抱いている初恋を初々しく思う、なんとも可愛らしい作品でした。木瓜の花言葉に一喜一憂する勇を想像すると、すごく愛おしいです。主人公は勇と息子である正に振り回されつつも、でもそんな生活をどこか楽しんでいるのではないかと思えて、ほっこりとした気持ちになりました。

尼宮乙桜
尼宮乙桜

【批評】

 今回作品を読ませていただき、綴られている文章に感動しました。独自のリズムとでもいいましょうか、千里 望様でないと書けない文章表現の原石を見たように感じます。まだまだ荒削りのようでもありますので、どうぞこれから磨きをかけていただけたら、独自の空気感がより美しく表現できるようになるのではないかと思います。

 noteでは文字数をどこで確認できるのかわからなくて正確なことはわからないのですが、それでもおそらく20000文字には至っていないと思います。本作は主人公の息子である正の人間関係も一つの魅力となっており、恵の立ち位置がさらりと描かれているのが大変勿体なく思いました。千里 望様にしか出せないリズム感を大事にしつつ、人物たちの立ち位置をよりくっきりと描写するようになさったら、より作品の魅力が増すと思います。

 ご応募、ありがとうございました!

今後の予定

企画は今後も行う予定です。
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今後とも応援の程、何卒よろしくお願い致します。