サブスクリプションはなろうを救うのか?

コラム

【はじめに】
※当コラムに登場する『解析サービス』及びその使用者に関しては権利関係により名前が出せませんが、この記事はご厚意により公開可能となっています。
解析結果をどのように受け止め、どう利用するかは読者様次第です。

 2022年の春頃を境に、「小説家になろう」では大きな転換点を迎えていました。
 小説家になろうは、日本最大規模の無料小説投稿サイトの正式名称です。(2023年1月時点)
訪問者数、作品投稿数ともに日本最大級といってよいでしょう。

 小説家になろうでは、投稿小説のランキング形式が採用されています。
 閲覧者の評価により日々、日々更新されるさまざまな形式のジャンルを統括するランキング。

 投稿作品に対して閲覧者が加算したポイントやブックマークが点数となり、累積されることで、日、週、月間、四半期、年間などの各種ランキング順位が日々、更新されるのです。

 転換点は、まず「異世界恋愛」と呼ばれるジャンルを大きく変動させました。

 それまで100文字に近い『長文タイトル』と呼ばれるタイトル群が姿を控えるようになり、変わって『短文タイトル』と呼ばれる20から30文字以下の小説タイトルが、ランキング上位を席巻するようになったからです。

 このような現象はなぜ起こったのでしょうか?

長文タイトルはどこから始まったのか?

 小説家になろうで短文タイトルが市民権を獲得し始めた背景には、まず長文タイトルがいつから市民権を獲得し始めたのかという点について、語る必要があると思います。

 本来、Wikipedeaは誰でも編纂できるために、情報ソースとしては優位性がとても薄いのですが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫、2008年刊行。伏見つかさ)から流行り始めた、という説をネット上で見かけました。

 また著名作品には『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社、2009年刊行。岩崎夏海)など、色々とあるようです。

 より過去の作品には『ダンシィング・ウィズ・ザ・デビルス』(富士見ファンタジア、1992年刊行。庄司卓)など更に古い時代の作品が該当するため、どれが起源などと例を挙げると枚挙にいとまがありません。

書店に並んだ商業化作品は、なろうのランキングに名を連ねている?

 小説家になろうで人気を博し、出版社から商品化され書店の本棚に並んでいる作品が、リアルタイムでランキングに存在しているか、といえば必ずしもそうではないという点に着目したいと思います。

 次に、小説投稿サイトに掲載されている作品群と、一般の書籍販売流通網や書店の棚に置かれている本には、短期間(数カ月間)の連動性がない点です。

 ランキングは100位から1位までの人気作品が集まるわけですが、現在、ランキングトップにある作品が、書店の本棚に並んでいるのか、といえばそうではありません。

 一口にランキングといってもジャンル別、日間や週間、月間などにも別れていますし、 ジャンルを超えた総合的なものも存在するからです。

 もちろん、アニメ化、映画化、コミカライズ化などにより、偶発的にランキングをのし上げる作品は定期的に存在します。

 それではこれ以外の要素でランキング上位を目指すとすれば、何が有効打となるのでしょうか。

長文タイトルは読者に内容を訴求しやすいが欠点も

 現在、小説家になろうでは、100文字以内のタイトルを付けることができます。
 100文字ギリギリの文字数を用いることによって、作品の大まかなあらすじをタイトルで伝えてしまおうという、作者の工夫が見受けられます。

 短いタイトルを読み興味を惹かれ、千文字近いあらすじを読んでから本文へと移るよりも、この方式の方が、読者の作品内容を知る手間暇を省くことができるからです。

 しかし、それだけ長いタイトルを付けるわけですから、どれだけ分かりやすいタイトルを考案したところで、 一目で読者の興味を惹けなければ意味がありません。

 このように長文タイトルには利点もあれば不便な点も存在する、ということを理解しなければなりません。そして長文タイトルにはさらに幾つかの欠点があります。

  • 商業作品化された際に、背表紙、カバーの殆どをタイトル文字が覆ってしまうため、購読層の興味を惹きにくい。
  • タイトルが100文字近くになると、内容を覚えていても題名を忘れやすく、購買意欲に欠ける。
  • 同様のタイトルがたくさん並ぶと、どれが本当に面白く読みたいものなのか、と読者に訴求できる機会が減る。

利用者(読者)は、既存のなろう利用者とは限らない

 ここまではあくまで小説家になろうという小説投稿サイトの内側に軸を置きました。

 それでは小説家になろう以外から流入してきている、いわゆる新規読者層はどこから発生したのでしょうか?

 アニメ化でしょうか? コミカライズ化でしょうか? 商用作品となり、書店や各種電子書籍販売サイトで宣伝されたからでしょうか?

 ここで見落としてはしてはいけないものがあると思います。
 それはサブスク(サブスクリプション)と呼ばれる、外部サービスを利用している人々の存在です。

サブスクリプションとは?

  • サブスクリプション。英語では、subscriptionと表記します。あるコンテンツやサービスなどを、決まった料金を支払うことで一定期間利用できる、ビジネスモデルのこと。所有するのではなく、利用できる点に注目して展開されています。

 ある解析サービスを利用して、小説家になろうに流入している読者層がどこから発生しているのかを、解析してみました。(2022年9月末時点)

 各種検索サービスサイトを含む、小説家になろうの検索履歴のうち、小説家になろうの検索履歴の中で、作品を紹介するサイト1位~3位がこちら。

1位 ComicーWalker
コミックウォーカー
2位 BookLive
ブックライブ
3位 カンゼン一気読み 動画LABO
【完全版】小説家になろう系のおすすめ作品40選 | 完結済みから連載中の名作をセレクト! | カンゼン一気読み動画LABO

 これら3つサイトの内、1位と2位はサブスクです。
 さらに、「小説家になろう」を含む、外部からの検索キーワードの上位には異世界恋愛が。

1.接近不可レディ
接近不可レディー|無料漫画(まんが)ならピッコマ|ZI.O Mingsung Yong Doosik Kin archaeopteryx

2.宮廷魔女の王子録
https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/251824/?yclid=YSS.1000029173.EAIaIQobChMIydSdkaiK-gIVEdKWCh1c7Q8fEAAYASAAEgJJZvD_BwE

 この2点も、ピッコマとRenta!というサブスクを提供する大手サイトでした。
 上記タイトルは小説家になろうには存在しませんが、各種サブスクサイトでは作品の数話まで無料、その後の話は有料か期間をおけば0円になる、というサービスを展開しています。

 これらの人気作品の続きを無料で読みたいと考えた読者はどのような行動を取るでしょう。

 待つ時間が惜しい、けれどお金をかけて読みたいとも思わない、という心理をもつ購買層がもし、小説家になろうでは無料で作品を読める、と考えたとしたらどうでしょうか?

 このように各種データを追いかけながらその過程を模索してみると、一般における「小説家になろう」は無料で原作を読めるサービスとして認知されている、と考えても良いかもしれません。

長文タイトルは飽きられたのか?

 話を少し元に戻しますが、ここ数年の間、ハイ・ファンタジージャンルのランキングでよく見受けられるようになった長文タイトルは、果たして飽きられたのでしょうか?

 似たような内容の題名が並んでしまったために、ランキングを見て作品を読もうとする読者は新しい作品を探すことを諦めたのでしょうか?

 長文タイトルの衰退は異世界恋愛ジャンルから始まったのではないかと、私は考えています。
 その理由として挙げられるのがサブスクの存在です。

 各種サブスクが提供しているタイトルの中では長文タイトルはあまり見受けられません。
 それどころか短文タイトルが主流と考えても良いほどです。

 サブスクの有料サービスを嫌い、小説家になろうに原作があると考えて流入してきた新規読者層は、それまで利用してきたサービスの中で主流であった短文タイトルを探そうとするでしょう。

 むしろ長文タイトルに対して拒否感を抱く人も多いかもしれません。
 そして新規読者層は異世界恋愛ジャンル作品を探すことを目的にしていますから、ハイ・ファンタジージャンルが徐々に活気を失ってしまったのも、なんとなくうなずけます。

 さらに異世界恋愛ジャンルであれ、ハイ・ファンタジージャンルであれ、既存読者数を新規に流入した読者数が一時的に上回ってしまったのだとしたら、長文タイトルが廃り短文タイトルが隆盛を誇った理由の一つになるかもしれません。

サブスクはなろうを救うのか?

 小説家になろうへと、新規に流入した読者層のうち、各種サブスクから無料サービスを求めてやってきたのだとすれば、読者はある程度の面白さを求めることでしょう。

 なぜなら、彼らはこれまで商業化されたレベルの作品を無料で読んできた文化を持つからです。

 短文タイトルを提供するだけでなく、面白さのレベル、作品の品質についても高いレベルのものを要求されることになると、私は思います。

 また、サブスク経由で小説家になろうを訪れた読者層は、ある程度早いスパンで作品が完結することを望むのではないでしょうか?

 書籍化作品一冊の文字数はだいたい10万文字から13万文字です。

 読みやすさを意識した作品であれば、1時間もしくは2時間で読み進めることができる量だといえます。

 さらにサブスクを利用する読者は消費型サービスを追求しているといわれています。
 もう少し簡単な言い方をすると、「短時間で読み切り、読み捨てできるエンターテイメント」を求めている傾向が強い、ということになります。

 読者のニーズは一週間から長くて10日間ほどのスパンで公開される新作と、10万文字単位で完結まで導かれる作品を常に提供してくれる作者、ということになる可能性も。

作品の製作過程もどんどん変化していく

 1作品に対する作品投稿期間と文字数は、これからもっともっと狭まっていく可能性もあります。

 通常のライトノベルは四ヶ月。長くて半年をかけて作品を刊行するのが現在の商業作品刊行ペースのようです。

 小説家になろうにおいては、数カ月かけて製作された商業作品と同レベル、もしくは別の方向性に視野を向けたサービスを展開していく必要性を求められているのかもしれません。