【第01回】漆黒の『幻想・ファンタジー短編』作品選評企画の総括（3）

　知性の高いゴブリンの視点から一人称で語られる異種族間の正義と倫理の物語。その高い知性に拠り垣間見える世界の残酷さが、ファンタジーの設定を通して分かりやすく浮かび上がり、読者に様々な事を考えさせます。短いながらも良い作品でした。

　さらなる質を追い求める場合は、物語中の必要なシーンと描写の選択と集中をより意識し、短い文で決定的な演出や印象を与える事が出来ればよいでしょう。また、短いながらも細部にこの作者さんなりの世界観がより出せればよいかとも思います。

　良い作品でした。次回のご参加も期待しております。

　生まれた時から知能が高かったゴブリンが、人間がいなくなった村で本を見つけた。彼は読み進め、少しずつ知識を得、礼儀を知る──。知恵を得たことで生き方が大きく変わったゴブリンの結末に寂しくなりました。ゴブリンと人間、どちらが化け物なのでしょうか。片側からだけ物事を見て判断する危うさを改めて認識しました。

『山海経』など中国の奇譚・奇聞の履修を感じさせる怪奇短編集。各話演出や仕掛けなどが凝っていて安定感があり、中国の武具などの履修もある程度感じられ、しっかりと風土の違う地での怪奇小説集として読めます。完成度はとても高いと言えるでしょう。

　一方、あえて欲を言うならば作者の文体の特徴は（確認のために他の長編も読ませていたただきました）かつての掲示板の小説群と似た簡潔さと同時にドライさもあり、ここに艶と情感が伴えば頭一つ抜きんでた作風になると思われます。

　具体的にはしばしば登場する妖しい女性などの描写にこの部分が顕著で、服装や魅力、仕草などに一点の艶を伴わせるだけでもだいぶ全体の見られようは変わって来ます。非常に贅沢な要望ではありますが、実力の高い作者さんですので細部の効果もとても大きかろう、と思いました。

　次回のご参加も期待しております。

　本作は「1作品につき2万字以下」という条件に合致するかどうか悩みどころでしたが、一話完結型ということで条件クリアとしました。よって、「第一話　名前」「第二話　白亀」「第三話　鬼」を読ませていただきました。謎の女・麻姑が現れるたびに起こる怪異の連作短編。昔話の中にある奇妙な空白を麻姑が静かに埋めていくような物語で興味深かったです。麻姑の手と爪が、妙に記憶に残っています。